コロナウィルス対策として、感染拡大防止としてマスクの着用が叫ばれている。その後3月、4月にかけての市場でのマスクの供給不足問題については予想を超えており、トップとしての判断と対応は甘かったと反省している。
まず、2月上旬にコロナウィルス問題で中国が深刻な事態になった時、市場でもマスクの不足が騒がれだした。そのタイミングでも地元福井ではまだ店頭にはマスクがあり、ほんの1~2日の差だったが、会社の社員分、大野市の子会社分、東京、宝塚のデザインスタジオ分、さらに中国、並びにカンボジアの工場分の手配が間に合った。また、中国の総経理よりのたっての願いとして、費用は中国の子会社負担で、地元政府に寄贈する防護服の手配を行い、会社が再開する前にマスクと一緒に届けることが出来た。後の日本での不足問題はその時点では予想出来なかった。
また、2月後半には、手配した量では心細いと判断し、市場にマスクがなかった時期に少々値段は高かったが予備として購入が出来た。その後、中国でのマスク生産が追いつくようになり、2月下旬に「日本が心配」ということで子会社から中国製マスクが送られてきた。さらに、以前からお世話になった中国の関係先からも多くはないが支援として送られてきた。購入したマスクと同時期に入荷したので、数に余裕が出来たこともあり、知り合いの医療機関や取引先に一部をお配りすることが出来た。また、消毒用のアルコール液についても以前からの備蓄があり、慌てて手配するようなことは無かった。効能が疑問視されているが次亜塩素酸消毒液を追加で2月下旬に手配し玄関だけでなく各職場にも設置した。その様な対応で、社員やその家族向けには、ある程度迅速な対応が出来たと思っている。
ところで、マスクの生産だが、これについては後手に回ったと思っている。マスクというと、不織布の一般的なマスクか、「アベノマスク」と言われる綿ガーゼが一般的だ。私自身の老化した固定観念では、当社の縫製部門でお手伝い出来るのは布製のマスクで、素材はガーゼの生地だと考えていた。その為、老舗の生地商社に手配を相談したが、原料になる生機(加工前の生地)は手配出来ても、加工は表日本地区でこの様な状況では加工依頼が出来ないと言われ諦めてしまった。綿等の天然素材の加工は北陸地区では得意とする染工場が存在していない。
しかし、今年一月より入社した東京の責任者から、同業の富山県氷見の会社や兵庫県西脇の会社の対応を紹介され、当社も何らかの貢献をするべきとの提案があった。ちょうどそのタイミングでNHKのローカル番組での紹介で地元福井市の染工場が生地を自社で染めてマスクを供給している報道を目にした。
その会社とは以前よりお付き合いもあり、その報道に登場した会社の会長とは面識がある。特殊な染料のバインディング技術で、草木染で色落ちしない技術を持った会社である。今回はその技術を生かし、銀ナノイオンをガーゼの生地に付け、消臭と制菌の効力があるマスクの生産が紹介されていた。早速、無理を承知で依頼したのが4月初め、生地が入荷して商品が出来上がったのが4月下旬、5月連休前までには間に合わすことが出来た。これまでの当社の対応では超スピード対応だったが、緊急時、非常時での迅速さでは物足りなかったと思っている。
一方、余ったレースの生地を使って以前よりマスクカバーをネットで販売している。2月の民放の報道でそのマスクカバーが紹介されたが、注文であっという間に品切れになってしまった。マスクカバーについても、在庫の生地をかき集め生産し、追加で材料を仕入れて生産をしたのが、4月中旬以降でマスクの生産と一緒のタイミングになった。このことについても大いに反省している。本来は社内でマスクの生産やマスクカバー品切れのリカバリー等、もっと早く、社内で議論が出るべきだと思った。社員間でその様な提案が出なかったこと、対応などについても、危機感の弱い会社の社風にも問題があったと思っている。
4月以降、緊急時、非常時ということで、「平時」では無いスクランブル対応をしようと社内で声掛けをしているが、この様な時こそ会社の緊急の対応力が試されると思っている。4月後半には防護服の生産の依頼があり、大野の子会社では一部不満が出たようだが、強引に5月後半より6月まで防護服生産に切り替えた。ある程度は皆ついていってくれていると思っている。
また、商品企画だが、マスクについては後で考えると、当社にはブラジャーのカップ裏に使用したりやショーツのマチに使う生地があり、ガーゼでなくてもそのニット生地なら代用が出来た。また、夏場を迎え、マスクの暑さ対策の商品として接触冷感加工の生地、大手スポーツメーカーが出したスポーツマスクが話題になったが、当社のネット販売では、それに適した福井経編製の生地を使ったスポーツインナーを生産していて、大手メーカーに対抗できる商品が作れたと思う。もっと発想が柔軟であれば、いろんなアイデアが生まれていた。
今の経済情勢は、繊維業界として大変厳しいものがあると思っている。しかし、「平時」では無い現状の時期、危機の時こそ新しい発想を生み出し、次の発展の「芽」を生み出すチャンスだと思う。アイデアと情報アンテナを張り巡らせ、また、社員からも失敗を恐れず発言できる環境にし、危機をバネに活力ある組織に変革していきたい。