本年の通常国会では、「働き方改革」が論議され、当社の企業活動にはあまり影響は無いが、関連法案が成立した。その中で、与野党で議論されたのが日本人の働き過ぎで、過労死の原因となった残業の取り扱いと、裁量労働制の一部導入の問題で、与野党が激しく攻防したが、本質的な議論がなされたのかは疑わしいし、改革の成果がもう一つ伝わってこない。
その中で、日経ビジネスの「賢人の警鐘」というコラムで、日本証券業協会の鈴木茂晴氏の「働く環境や処遇の整備は会社の責務。副業や雇用流動化でごまかすな」というタイトルのコメントがあったので、今回はそれについて考えを伝えたい。是非、読者の方からご意見を伺いたい。
その内容に入る前に、今年は「働き方改革」に関連して、様々な記事や講演会があったので、それを紹介したい。
4月頃のやはり日経ビジネスの特集だが、「日本電産 真の働き方改革」というタイトルの特集があった。日本電産はモーレツな働きぶりで有名な、永守重信氏が一代で築き上げた会社で、ご存知の方も多いと思う。サブタイトルに『「元日以外、仕事は休まない」。こう公言してきた男が豹変した。一代で世界を代表するモーターメーカーを築いた永守重信・日本電産社長。自他共に認めるハードワーカーが今、目指している目標は、「2020年度に残業ゼロ」だ。長時間労働が代名詞だった日本で、何事も徹底して取り組む永守氏はどうやってこの目標を達成しようとしているのか。』というものだった。その内容の中で、永守社長がその様な発想の転換のきっかけになったのは、次々と買収してきた海外企業の中で、日本企業より働く時間が少なくて、より生産性の高い会社があったことで、ご本人のコメントでも、「欧米の企業は残業しないし、休暇も全部取る。その割に業績は悪くない。いったいいつ働いて、どうしているのかと不思議でした。一応ものの本なんかで知っていましたが、実際に欧米の企業を買収するようになって、『なるほど、こういうメカニズムなのか』とわかってきた」「長い時間働くのとどちらがいいかと言ったら、短い時間働いて同じ業績を上げる方がいいに決まっています。『日本のやり方が間違っているんじゃないか』と思い始めたんです」と語っている。
同社の目標は、2020年までに、「生産性2倍!残業ゼロ!」となっている。猛烈さは変わらないが、その中で紹介される、生産性向上への取り組みはとても参考になり、特に会議運営を徹底して効率化した取り組みは、当社の方でも早速取り入れさせて頂いた。
働き方とは、少々視点が違うが、今年の5月に、福井経営品質協議会 設立20周年記念講演会で、講師の中小企業診断士の瀬戸川礼子氏の講演も紹介したい。そのタイトルが『「いい会社」のよきリーダーが大切にしている7つのこと』で、①数字より心を大切にする ②スピードより順番を大切にする ③満足より感動を大切にする ④威厳より笑顔を大切にする ⑤仕事に感情を持ち込む ⑥率先垂範せず主体性を大切にする ⑦効率より無駄を大切にする となっている。当社の女性幹部社員を連れての参加だったが、近年、女子社員の比率が3分の2になってきている当社にとっては、ダイバーシティ化の中で働きやすい職場づくりを行ううえでとても参考になった。
また、6月の福井県経営者協会の総会後の講演会で、当時カルビー株式会社の会長兼CEOだった松本昇氏のお話を聞く機会があった。題名は「Change,or Die! カルビーの働き方改革」で、これもとても参考になる内容だった。とても論理的な方で、小事にこだわらず、大局から物事の本質に迫る、もうお亡くなりになったが、戦前の有名な陸軍参謀で伊藤忠の会長もされた、瀬島龍三氏のお話を彷彿させるものだった。その中で、板橋にあった7階建ての本社を、東京大手町のビルのワンフロアーに移転したこと、そこには役員室や会議室を設けなかったこと、優秀な女性の地区統括責任者が、家事と両立できるように配慮した話などが印象的で記憶に残っている。
また、「一害を除く」ということを話されたが、これは、「一利を興すは一害を除くに如かず、一事を生かすは一事を省くに如かず」という、13世紀大モンゴル帝国の、チンギスハンの知恵袋だった、耶律楚材の言葉だが、知恵のあるリーダーが、部下の意思統一を行う事に役立ち、余計なことをさせないことで、働く時間の効率も良くなると思う。
さて、前置きが長くなったが、冒頭の鈴木氏の主張では、「副業」について、「個人的には副業は筋が立たないと思っている。社員には毎日、最高のコンディションで一生懸命働いてほしいと考えているからだ。退社後や休日はゆっくり休んだり、自己研鑚に励んだりしてほしい。いくら本業に差し支えない時間とはいえ、休みを使って働いたら、そのうち本業にも悪影響を与えてしまうのではないか」、さらに、「働きに応じた処遇をきちんと整備すれば、従業員のモチベーションは上がり、やりがいを持って仕事ができる。その結果生産性も上がる。副業を始めようと考える人も出なくなるだろう。」と述べている。
確かに、経営を預かる私の立場からは、そうあってほしいと思っている。しかし、これで大多数の社員はそれで満足するとは思うが、もっと稼ぎたい、今の会社では得られない違う体験をしたいと思う人は、いくら待遇や処遇を良くしても満足しないのではないか。自己の成長と、会社での成長が一致すれば良いが、社員を縛らない複数の選択が出来る制度も必要だと思う。
「働き方改革」の中で、出来るだけ無駄を排し、残業を減らし、効率よく働けるように、個々の企業努力は必要だ。その結果、余暇の時間も増加すると思うが、貴重な時間をキャリアアップ、自己啓発に使おうとする人も、今後増加していくと思う。一企業で長く働くというこれまでの日本人の職業意識も、これから変遷していくのではないか。今後、どの会社で働くのかということから、どの様な仕事をしていくのかという考えを持つ人も多くなっていくのではないかと思う。その様な人の中に、次の経営を任せられる人がいるかもしれない。その様な多様な人財を受け入れることが出来る会社を目指したいと思っている。また、理屈とは別に、感情として「この会社が好きだ」と多くの社員の方々に思っていただけるようにしなければと思っている。